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スローモーション

気温19℃
いよいよ春も真っ盛りに向けて、人も動植物も動き出す。

道中、車内から覗いた河原には菜の花の絨毯が広がっていた。
里川で立ち止まり、暫く悩んだ挙げ句、上へと車を走らせた。

山道に転がる崩落の瓦礫を通り抜ける。
更に走らせると、景色は次第に逆戻り。
少し下れば春の世界が広がっているというのに、こんな場所を選んでしまう。
03282013_1.jpg

水温計を引き上げると7℃を示していた。
流れの押しが強い。
ドライフライは、あっという間に流されて行く。
緩い流れのポイントでも反応が無い。
ニンフに結び変えるも無言。
果たして魚は居るのだろうか。
フライの選択が悪いのか、流し方が悪いのか。
そんな事を考えながら、貴重な時間は過ぎて行く。

この釣りは、東京に居た頃の釣行スタイル。
初めて訪れた流れの選択を迷って、他を探索する時間はない。
一度決めたら、居ると信じる。釣れると信じる。
このスタイルで良い思いをした事はほとんどないのだが、
それは総合的な釣りの知識、技術が僕に足りないのだと認識している。
ただ、東京に居た頃と異なる事は、谷を歩き始めた事だ。
いくつかの谷を歩くうちに、流れを作り出す地形を観察し、
周りの樹種や水の色、匂い、粘性が違う事に気づき始めた。
これらの事柄を確かな裏付けでもって分析し、それを釣るという行為に
結びつけられる時が僕にやってくるのかは分からないが、
釣りを通じて新たな分野の興味や発見が持続してゆく事は
僕のライフワークに大きなプラスになることだろう。


岩を乗り越えるたびに、次はどんな流れが現れるだろうと、
そんなワクワクがたまらなく好きで上へと来たのだが、
下の世界だったなら、ドライフライにヤマメが飛びついたりしてと
頭の中で想像し、この場所を選んだ事を後悔し始めていた。

下の写真の右下、苔むした岩の右には深い淵がある。
淵の数メートル先から細く流れ込み、細かい白沫の筋が消えると岸へとぶつかり、
そこで反転流を形成してまた、下へと細く流れ出る。
静かに近づき、岩陰から水中を観察する。
黒い影が魚影なのか、沈み石の影なのか、流れの歪みを通すとどちらにも見える。
がん玉をかませ、ニンフをそっと沈めると影が動いた。
そこで執拗に粘ったが、結局は数投でその魚影は姿を消していた。
居る事が分かるとスイッチが入った。
03282013_2.jpg

落差のある流れを遡行して行くと、先の流れの状況がつかめない。
岩を乗り越えたら、実はそこがポイントだったりして。
岩を踏む前に、一歩手前でそこを探らなければならなかった、なんて事がよくある。

下の写真のポイントは、下流から見ると顎辺りの目線となる。
流れが緩んでいる事が確認出来、#16のエルクヘアカディスを漂わせみたが、
波と反射でよく見えない。 しかし、一通り流して反応が無いという事は駄目なのだろうと
岸へ上がって、その緩やかな流れに回り込んでみると、予想したよりも大きな深いプールであった。
ティペットを詰め、見易い#12のエルクヘアに結び変える。
頂辺の岩下へ落として、写真右上の肩まで直線に流れて行く。気配は無い。
魚が身を隠せる部分は肩左にある長い岩の下だろうか。
ならば岩に沿って、上流から長く流さなければと、キャストしたエルクヘアは長い岩の先端、
ポケットに入った。その場で一旦漂ったのち、ゆっくりと岩から離れはじめる。
03282013_3.jpg
このままフライは流れに乗り、肩へと落ちて行くのだ。
諦めムードの頭の中でそのようにイメージした直後、ゆらりと魚影が浮上してきた。
それは字の如く、ゆらりと現れ、ゆっくりと身を翻してフライへと口を開けた。
喉の奥で息が詰まった。
左手でしっかりとラインをつまみ、右腕は挙げる準備。
どちらの手もギシギシに力んでいた。
喰え、喰えっ!

開かれた口は遂にフライを捕らえた。
実際に魚の動作が本当にそんなにゆっくりとしたものだったのかは分からない。
しかし、今思い返してみても、フライを捕らえるまでの出来事の一つ一つが鮮明に蘇る。

右手が先だったか、左手だったか、とにかくラインがピンと張りつめ、ここ最近
カワムツ相手だったロッドが大きくしなった。
右腕を大きく挙げ、左手でラインをたぐる。
掛かった魚は流れの肩へと走り、僕はラインを留めてそれに耐える。
流れの力と相まって力強い引きだった。

ロッドで寄せながら、自分も寄る。
遂にこの瞬間が訪れた。
ドキドキと胸を打つ鼓動が収まらぬままに、艶やかに光る斑を眺めていた。
03282013_4.jpg

一年前に始めたフライフィッシング。
故郷の渓で初めて釣り上げたのもイワナだった。
確か、あの時は記念となる最初の一尾を写真に収める前に
イワナは流れに戻っていったっけ。
何か一つ、とても大きな事を成し遂げた時の
清々しい、晴れ晴れとした気持ちが身体中を満たした。

03282013_5.jpg
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テーマ:フライフィッシング - ジャンル:趣味・実用

  1. 2013/03/31(日) 09:00:32|
  2. Fly fishing
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

年に何度か「夢に出そう」な釣りをしますが、初期の思い通りに出来た釣りは今でもまぶたに浮かびます。
出るならここしかない!って場所がわかってくるともっとこの釣りにハマりますよ。
  1. 2013/03/31(日) 21:13:25 |
  2. URL |
  3. いわなたろう #3UG7ZRW.
  4. [ 編集]

いわなたろうさん

出るならここしかない!って場所、分かるようになりたいなぁ。
記憶にのこる釣りって、いつまでも自分のなかで再現出来るんでしょうね。
映像に残すのも面白そうですね。
流行のGOPRO導入?!いや、まだやめときます(笑)
  1. 2013/04/01(月) 14:42:31 |
  2. URL |
  3. SKY #LkZag.iM
  4. [ 編集]

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