関東圏で生活をして12年。
その3分の1を過ごした学生時代。
家族で自然の中を歩きたいと思い、丹沢の大山へ行こうと
家を出たのだが、厚木で高速を下りたのが昼だった。
家を出る前から、僕の頭の片隅には、学生の時に通った定食屋で
昼飯を食べるのもいいなぁと思っていた程度だった。
10年振りに246を走ると、相変わらずの渋滞だった。
次第に、断片的にだが、見覚えのある電柱や交差点を目にしながら
学生時代の生活を思い浮かべようとする。
のろのろと車は当時の生活圏へと進んで行く。
ナビでは1、2年生の時に住んでいたアパート近くを示していた。
昼飯に考えている定食屋はまだ先で、既に正午をまわり、子供達も限界
近かったのだが、やっぱりここまできたのだから見ておきたいと、
カミさんに当時のアパートへ寄ってみたいことを告げる。
彼女も興味があるらしく、ナビと目の前の風景を交互に確認しながら
昔通ったであろう細い路地を進んで行く。
ここの筈と思っていた場所にアパートは無く、取り壊されたのかと
少し落胆しながら、覚えているような覚えていないような、いまいち
しっくりこない細い路地を先に抜けて行く。
既に定食屋の気分で、路なりのカーブを抜けたとたん、当時のアパートが現れた。
車を下りてアパートの前に立つ。
集合の郵便受けで自分の部屋だった番号を確かめる。
当たり前だけれど、そこには僕と違う名前が書かれている。
まだ肌寒い時期に両親は少し着飾って、確か黒のレザーのコートを着て、
不動産屋と4人でこの前に立った時の事を思い出した。
初めての一人暮らしという、全てが自由になるというワクワクと不安の入り交じった
気持ちでここを訪れたと思う。
なんて事無いよくある、少し古びたアパートなのに、凄い存在感を感じたのは
僕が住んでいて、一度は無いと諦め気分からの出現だったことは間違いないのだが、
ここまで来る間の断片的な思い出の景色達が、これによって一気に型作られ
なんとも懐かしく、少し切ない気持ちになった。
僕はこれで一気に火がついてしまう。
家族には悪いが、「大山は行けたら」にしようと思った。
このアパートから学校まで通った道を、必至に記憶を辿り再現した。
ほとんど変わらない景色だった。
このコーナーの手前で少し減速して、抜けるちょっと手前で加速するのだけれど、
その先は急に車が出てくるから、絶対に気をつけながら攻めなければいけない。
こんなことがその地点を通る時にすんなりと出てくることに驚いた。
目的の定食屋が近づくにつれ、気持ちはすっかり当時の自分に戻っていた。
踏切を渡って左折し、少し進んだところに、まだ同じ外観で営業していた。
すんなりと扉を開けることが躊躇われた。
この懐かしい瞬間は、10年ちょっとぶりのたったの1回、一瞬だ。
先にカミさん、子供が入り、最後に僕が入った。
直ぐに店内を見回し、壁のメニュー、テーブル、椅子が変わっていない事を確認する。
大勢の仲間と、時には一人でよく来た定食屋。
僕は既にお気に入りの、とりチリ丼と決めていたが、端からメニューを確認しながら
ここで過ごした時間を思い出し、浸っていた。
この空間に我が家族がいる事に突然ハッとした。
この光景をどうやって想像できただろうか。

店の奥さんはまだ若かった。
といっても、いくつかは知らなかったのだが、小さな子供がたまに店に顔を出していた。
厨房奥で聞こえてくる、今さっき帰ってきたばかりの声は、きっとその時の子だろうね、
トリちり丼は確かにおいしいね、なんて事をカミさんと話すのだが、未だこの空間でのこの会話が
不思議でならない。
この不思議な気持ちにも次第に慣れてきて、学校近くの3、4年生時に住んでいたアパートへ向かった。
どちらかと言うと、こちらの方がより現実的で、詳細な思い出が蘇る。(どちらも現実であるのだが)
いつも総菜をおまけしてもらった隣の弁当屋はもうやっていないのか、定休日なのかシャッターが
閉まっていた。
ここから坂を一気に上り学校へ向かう。
工学部は広い敷地の正反対のエリア。
敷地に沿う道をグルリと回り込んで、警備員の立つ門を抜ける。
4年間通い続けた場所。
いつも、それが何かは分からない、モヤモヤしたものが心の中にあった。

講義を受けた数々の建物を見ながら、一番の思い出の建物、学食/ログハウスへ向かう。
途中、4年生時の研究室のある建物を通ったとき、ふとそこから昔の僕がひょこりと
顔を出しそうな気分になった。
半アウトドアの感覚が好きだったログハウス。
ここで弁当を買って地べたに座って食べた。


中に入って、子供にアイスクリームを買う。
その業務用冷凍庫がどこにあるかもハッキリ覚えている。
当時は2台あったのだが、1台しかなかった。
節電の影響か、学生数が減ったためだろうかと、高い天井に昔と変わらずにまわっている
シーリングファンを見上げながら思った。
休日のため学生は少なかったが、各人、各グループが思い思いに時間を過ごす。
当時の僕は、「自由」の意味を間違ってとらえてはいなかっただろうか?と自問する。

四季の移り変わりが一番楽しめたメインの通り。
夏の暑い日の、深い緑からこぼれる日差しが、周りの活気と相まって、強烈に記憶に残っている。

少し後ろ髪引かれる想いで思い出の場所を去り、約束だった大山へと向かった。
遅くなって家に戻り、思い出してみる。
一日で体験したとは到底思えないほどを僕は見て、思い出し、感じて、考えた。
特定の何かを望んで訪れた筈ではなかったが、大きくて大事なものが得られたような気がする。
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- 2011/11/30(水) 12:05:48|
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家族と訪れている事をついつい忘れてしまったよ。
うちらが卒業しても、同じ風景で時間は流れてるんだなぁ、なんて
普段の時間軸ではない異世界の感覚だった。
ログの対面、メイン通り側にカフェが新設されてたよ。
- 2011/12/04(日) 12:58:33 |
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