気温19℃
いよいよ春も真っ盛りに向けて、人も動植物も動き出す。
道中、車内から覗いた河原には菜の花の絨毯が広がっていた。
里川で立ち止まり、暫く悩んだ挙げ句、上へと車を走らせた。
山道に転がる崩落の瓦礫を通り抜ける。
更に走らせると、景色は次第に逆戻り。
少し下れば春の世界が広がっているというのに、こんな場所を選んでしまう。

水温計を引き上げると7℃を示していた。
流れの押しが強い。
ドライフライは、あっという間に流されて行く。
緩い流れのポイントでも反応が無い。
ニンフに結び変えるも無言。
果たして魚は居るのだろうか。
フライの選択が悪いのか、流し方が悪いのか。
そんな事を考えながら、貴重な時間は過ぎて行く。
この釣りは、東京に居た頃の釣行スタイル。
初めて訪れた流れの選択を迷って、他を探索する時間はない。
一度決めたら、居ると信じる。釣れると信じる。
このスタイルで良い思いをした事はほとんどないのだが、
それは総合的な釣りの知識、技術が僕に足りないのだと認識している。
ただ、東京に居た頃と異なる事は、谷を歩き始めた事だ。
いくつかの谷を歩くうちに、流れを作り出す地形を観察し、
周りの樹種や水の色、匂い、粘性が違う事に気づき始めた。
これらの事柄を確かな裏付けでもって分析し、それを釣るという行為に
結びつけられる時が僕にやってくるのかは分からないが、
釣りを通じて新たな分野の興味や発見が持続してゆく事は
僕のライフワークに大きなプラスになることだろう。
岩を乗り越えるたびに、次はどんな流れが現れるだろうと、
そんなワクワクがたまらなく好きで上へと来たのだが、
下の世界だったなら、ドライフライにヤマメが飛びついたりしてと
頭の中で想像し、この場所を選んだ事を後悔し始めていた。
下の写真の右下、苔むした岩の右には深い淵がある。
淵の数メートル先から細く流れ込み、細かい白沫の筋が消えると岸へとぶつかり、
そこで反転流を形成してまた、下へと細く流れ出る。
静かに近づき、岩陰から水中を観察する。
黒い影が魚影なのか、沈み石の影なのか、流れの歪みを通すとどちらにも見える。
がん玉をかませ、ニンフをそっと沈めると影が動いた。
そこで執拗に粘ったが、結局は数投でその魚影は姿を消していた。
居る事が分かるとスイッチが入った。

落差のある流れを遡行して行くと、先の流れの状況がつかめない。
岩を乗り越えたら、実はそこがポイントだったりして。
岩を踏む前に、一歩手前でそこを探らなければならなかった、なんて事がよくある。
下の写真のポイントは、下流から見ると顎辺りの目線となる。
流れが緩んでいる事が確認出来、#16のエルクヘアカディスを漂わせみたが、
波と反射でよく見えない。 しかし、一通り流して反応が無いという事は駄目なのだろうと
岸へ上がって、その緩やかな流れに回り込んでみると、予想したよりも大きな深いプールであった。
ティペットを詰め、見易い#12のエルクヘアに結び変える。
頂辺の岩下へ落として、写真右上の肩まで直線に流れて行く。気配は無い。
魚が身を隠せる部分は肩左にある長い岩の下だろうか。
ならば岩に沿って、上流から長く流さなければと、キャストしたエルクヘアは長い岩の先端、
ポケットに入った。その場で一旦漂ったのち、ゆっくりと岩から離れはじめる。

このままフライは流れに乗り、肩へと落ちて行くのだ。
諦めムードの頭の中でそのようにイメージした直後、ゆらりと魚影が浮上してきた。
それは字の如く、ゆらりと現れ、ゆっくりと身を翻してフライへと口を開けた。
喉の奥で息が詰まった。
左手でしっかりとラインをつまみ、右腕は挙げる準備。
どちらの手もギシギシに力んでいた。
喰え、喰えっ!
開かれた口は遂にフライを捕らえた。
実際に魚の動作が本当にそんなにゆっくりとしたものだったのかは分からない。
しかし、今思い返してみても、フライを捕らえるまでの出来事の一つ一つが鮮明に蘇る。
右手が先だったか、左手だったか、とにかくラインがピンと張りつめ、ここ最近
カワムツ相手だったロッドが大きくしなった。
右腕を大きく挙げ、左手でラインをたぐる。
掛かった魚は流れの肩へと走り、僕はラインを留めてそれに耐える。
流れの力と相まって力強い引きだった。
ロッドで寄せながら、自分も寄る。
遂にこの瞬間が訪れた。
ドキドキと胸を打つ鼓動が収まらぬままに、艶やかに光る斑を眺めていた。

一年前に始めたフライフィッシング。
故郷の渓で初めて釣り上げたのもイワナだった。
確か、あの時は記念となる最初の一尾を写真に収める前に
イワナは流れに戻っていったっけ。
何か一つ、とても大きな事を成し遂げた時の
清々しい、晴れ晴れとした気持ちが身体中を満たした。
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- 2013/03/31(日) 09:00:32|
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浅瀬に姿が見えた。
下流にそっと回り込みニンフを放る。
プカリと浮いたマーカーに激しいアタック。
ドライに結び変えピシャリと一発。

水温8℃。
ここ最近の最高水温。
谷もようやく色づき始めた。

クシャミを連発しながらも軽快に遡行する。

度重なる谷歩きで酷使されすぎたのか、最近になって両足に水が入り込むようになってきた。
こんなんじゃ、ウェットウェーディング。
今日は暖かいとは言え、水に浸かるにはいくらなんでも時期が早すぎる。
そんな僕の不快感をよそに、ポンポンと飛び出してきて本日一の良型。

小春日和の淡い青空を見上げて、またクシャミ。
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- 2013/03/29(金) 16:29:17|
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谷を一本ずつ、または区間ごとに調査している。
前回から本腰を入れ始めた僕はウェーダー仕様のため、
ハイキング道は通らず、終始流れを詰める。
時折、頭上でハイカーの声が通りすぎて行く。
たまに、気づくと上から覗かれている事があったりして、
気配というものは敏感に感じ取れるものなのだなぁ。
何本か異なる谷を歩いていると、自分好みの谷が分かってくる。
今回はその類いであった。

水温6℃。ニンフの釣り。


もうすっかり馴染みとなったカワムツ。

釣り上がって遠くから落ち込みを確認すると、スクールしている。
この前で小休止。

次々とマーカーは引き込まれ、この谷一番の良型が連発した。

婚姻色、追い星の個体も混じる。

美しい椿に出迎えられた谷の終わり。
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- 2013/03/26(火) 17:24:31|
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オピネル。
肥後守。
最初に持つナイフとして定番であるが、
僕の世代では、鉛筆削りと言えば肥後守。
いや、正確には僕の世代がギリギリ、このナイフに馴染みがあるだろうか。
祖父がこれで鉛筆を削ってくれたのを思い出す。
一家に一本、どの家庭にもあった生活道具。
電動の鉛筆削りに憧れた時もあったが、最後まで我が家にやってくる事はなかった。
一時の流行で欲しかったというだけで、本当のところは無くても良いのだと思っていたのだろう。
親の削るところをずっと見ていて、教えてもらったりもして、それから今までずっとナイフ。
鉛筆を使いたいから削るのではなく、ナイフを使いたいから鉛筆を削るなんてこともある。
実際、仕事で画を描いたりする前に、儀式のように鉛筆を削る。
一削りごと、先端を尖らせるごとに心が落ち着き、精神集中が高まってゆく。
習字のとき、墨汁を使わずに硯で墨をするのと同じ感覚だろうか。
物の価値は利便性だけではないと感じる。
どちらも同じ折りたたみ式ポケットナイフとして、手を出し易い部類であるが、
そのデザインは見ての通り大きく異なる。
美しい曲線を持つオピネルは、フランス。
直線的で無骨とも言える表情、機能美の肥後守は日本。
どちらもそれぞれの良さがある。

最近になってまた肥後守に戻ってきた。
ボディはプレス成形だろうか。一枚の金属板をコの字に折り曲げた形状。
複雑な機構、余計な生産工程を省いたシンプルな作りが素晴らしい。
歪んだら曲げて直す。緩んだら叩いて締める。使用する者が特別な知識や技術を必要とせず
自分で直して長く使い続けられる物は素晴らしい製品だと思う。
こんな完璧な製品にちょっと余計な事をしてみた。
コの字のボディは握って力を入れても特に違和感を感じる事は無いが、
しっかりと握った時の感触とフィット感が欲しいところだった。
愛用品には自分なりの特別な何かを加えたいものだ。
ナイフとともに経年変化の味が出るものがいい。

レザーケースを下へとナイフから一旦抜き、刃を出してまたボディへ滑り込ませるとグリップにもなる。
当初、予想した握り心地を上回るグリップとなった。
肥後守の美しさをわざわざ隠して、と思われる愛用者も多いかと思うが
自分が許せる範囲の出来になった、と締めくくっておこう。
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- 2013/03/22(金) 23:08:28|
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釣りがライフワークの一部として確立しつつある。
僕の言うライフワークとは、主に居住地域での活動である。
車をとばしての遠征の釣りもライフワークであるとも言えるが、
年間を通して、ある一つのフィールドを観察するには多大な金と時間と気力を要する。
それを貫き通す程の情熱を僕は持ち合わせていない。
自分の住む地域はどんな地形で、そこには何があるのだろう。
釣りとトレッキングをしていなければ、このような興味を抱く事も無かっただろうと思う。
この地に移り住む前にGoogleマップで上空から観察した。
そして今、少しずつ歩きながら実際にこの目で確かめている。
標高700メートル程の山塊は多くの谷を持ち、花崗岩を主体とした
広葉樹の多い、豊かな土壌を持った自然環境であるとの印象だ。
谷へは住宅地から直ぐにアクセス出来る。
もともと里山であったであろう現在の住宅地であるが、ゆっくり歩きながら観察すると
その一部を今でも見る事が出来る。
ハイキング道が整備されており、多くのハイカーが訪れる谷でもある。
2時間もあれば充分に谷を抜けられる程の規模で、ライフワークとしての活動をするには
最高の環境だ。
歩いて地形を把握し、次に釣り道具を持ち込んでのちょい釣りを楽しんだ。
温かな日射し、雨と強風を繰り返しながら、確実に春は近づいている。
いよいよ、本格的に谷を歩く事にした。
流れを遡行し谷を詰める。
オーバースペックではあるが、所有する唯一のチェストハイウェーダーで入渓。
水温5℃。ドライで探った後、ニンフに結び変える。
小場所もくまなくチェックしながら釣り上がり、こんな落ち込みは期待を裏切らない。

マーカーがチョンっと沈み、カワムツが顔を出した。

ビブラムソールのトレッキングブーツでは足下が心もとなかったが、フェルトソールがしっかりと
岩肌に食いつき、軽快に岩間を飛んで行く。

ここまで難所は無かったが、2段堰堤の出現で巻く。

リーダーキャストから解放され、存分にラインを出す。


下ばかり見ていたのではいけない。
見上げてガレを確認。
静かな谷に、時折遠くでカラカラと崩落の音も聞こえてくる。

次第に足も慣れて遡行速度も上がってきた頃、本日の本命現る。

手前から徐々にテンポ良く。
僕も谷の仲間に入れてもらおう。
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- 2013/03/14(木) 13:05:41|
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最近のお気に入り。
東京を離れる際に職場の人達から餞別で頂いた品。
ずっとLAMYを愛用していた僕にとっては初めてのMontblancとなる。
頂いたこのモデルは、キャップエンドのポリレジンにロゴが封入されており、
ペンを取る度に、光に透かしては眺めて楽しんでいる。

パッケージに同封されていた名入れサービスバウチャーで文字を指定し、一週間程で名入れが完了した。
自分仕様となったMontblanc。
名入れサービスやパーツ単位で色を選択出来るなどのセミオーダーは、
既製品に付加価値を求める人にとっては嬉しいサービスの一つと言える。

憧れの自分だけのオリジナル。いわゆる一点もの。
フランス製であるMontblancから、オートクチュールのワードが頭に浮かぶ。
注文服に使われる言葉らしいが、昔は顧客それぞれの注文に応えていた時代があった。
ご存知の通り今でも存在するが、僕はそんな世界とは縁遠い。
それならば、もう一つ付加価値を。
黒の鏡面ボディを不要な傷からまもって頂こう。
テーマ:趣味と日記 - ジャンル:趣味・実用
- 2013/03/06(水) 13:22:29|
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