自らの選択で新たな生活をスタートさせた2012年の終わり。
予想していたこととは言えども、現実に訪れると、なかなかタフな状況に日々、
右往左往している。
良くても、悪くても、時は万人平等に流れてゆき、そしてまた新たな年がやってくる。
僕の内は依然として混沌の渦の中だが、今日は仲間たちと囲む火を見つめて休戦した。
家族皆、健康に暮らせたことに感謝。
さよなら今年。
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テーマ:日記 - ジャンル:日記
- 2012/12/31(月) 00:36:19|
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出発まであと数時間、トローリーケースとバックパックを前に腕を組む。
さて、どうしたものか。
たかが3泊4日の東京滞在、こと初日に関しては到着してホテルのベッドに潜り込むだけなのに、
数日の海外出張に使用していたトローリーからは荷物があふれていた。
さっき着けたばかりの、まだ体温に馴染まないヒヤリとする腕時計を覗き込む。
思考を停めて、トローリーのフタに膝を押当てながら目一杯の力でジッパーを閉めた。
小さな夢と期待も入れて。
東京の夜景まで約1時間。
機体が高度を下げるにつれ、無数の光の粒が鮮明に輝きだす。
離れてからまだ2ヶ月も経たないというのに、時として嫌悪を感じたこの都会に郷愁を覚える自分を発見する。
僕は狭い座席でロッドケースを握りしめ、しばらくの間、ここでの生活を思い返していた。
それにしても、、、
ロッドを手に、痛快の思いで東京を脱出することは度々あったが、まさか東京入りすることになるとは。
今回の旅の締めくくりとなる最後の目的が始まる。
きっともう通る事は無いと思っていた忌々しい渋滞の中央道も、今日は恋しい気持ちでみえるのだから、
自分はつくづく単純な奴なんだと思う。
雨脚が強まったり、弱まったり。
僕は隣で運転する大学時代からの親友と話をしながらも、時折空を覗き込んでは、
回復の兆候が見られそうにない鈍色の空を恨めいた。
僕が今のように釣りにはまり込むきっかけとなった初めての日を思い返してみる。
真っ青な空に白い雲が浮かんでいる。幼少の頃に見た夏休みの空だった。
盛夏の青々とした木々からは夏の匂いを感じ、鳥や蝉の声が静かな釣り場に響いている。
そして隣には気の置けない親友。
魚信皆無が数時間続き、ただひたすらボトムをトレースしていたスプーンに突如伝わった衝撃。
身体中を一気に電気が駆け巡り、脳天まで痺れた興奮と感動。
親友が駆け寄り、がっちりと交わした握手の力強さ。
もう二度と訪れることは無い初めての体験は、今でも昨日の出来事のように鮮明に蘇る。
僕にとって、そのいずれも、全ての要素が最高のお膳立てであった。
釣り場に到着して早速準備に取りかかる。
霧を纏った水面は降り続く雨に叩かれている。
一通り友人がルアーを引いた後、用意してきたフライタックルを手渡す。
フライフィッシング一年生の僕が未熟な知識と経験でもって、彼にこの底なしの世界の入り口を紹介するのだ。
大層な役目である。
いまだ不細工ではあるが気を込めて巻いてきたエルクエアカディスを結ぶ。
いつもなら直ぐにフライに出てくるはずだが、今日は激しく叩き付ける雨のせいか反応が無い。
やはりこういう時はドライフライを見つけにくいのだろうかと、特に話しかけるでも無く声にしてみる。
雨脚が弱まり、慌ただしくしていた水面が落ち着きを見せ始めた。
そろそろ反応してくれるだろうか。
食らいつくそぶりを見せる魚影に息をのんで、頼む食ってくれ!と念を送るがなかなかそうはいかない。
そんな時間がしばらく続いた。
僕は目の端でちらりと彼の表情を盗み見る。
どうだろう、まだいける感じなのか、それとも小休止したほうがいいだろうか。
その表情からは気持ちを汲み取る事が出来きないままに僕は自分のタックルを置いて横に付いた。
彼の放るフライを目で追う。
2投、3投、流れ込みの白沫の端をフライがゆっくりと流れ出し、すっと小さな影が近付いた。
控えめだがはっきりと水面が盛り上がりフライが消えた。
僕はとっさに、大声を張り上げていた。怒声にちかかったかもしれない。
合わせろっ!引けっ!
左手で引くフライラインの張力だけに注視していた。
彼は言われるがままに、ただがむしゃらにラインを引き込み、そして僕もまた必死だった。
小振りな岩魚がしっかりと彼の大きな手中に収まった。
張りつめていた気持ちと身体の力が一気に抜けて、大きな喜びとともに安堵した。
他人が釣る事にここまで自分の気持ちを重ねることができることに驚きながらも、
とても満たされた気持ちでいっぱいだった。
そして僕が初めて釣った日と同じように、今度は僕が、釣りを教えてくれた彼の立場となって握手を交わした。
こういう気持ちだったんだなと今になって思う。
ずっと降り続いていた雨も上がり、雄大な富士がしっとりと湿気を含んだ冷気のなかに浮かび上がる。
彼の始まり、僕らの至福の時を締めくくる最高の景色が広がっていた。

素晴らしい体験をありがとう。
2012年12月22日 忍野にて
テーマ:フライフィッシング - ジャンル:趣味・実用
- 2012/12/28(金) 12:55:37|
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いつものザックの上からロッドをたすきに掛ける。
フライを始めて一本目に手に入れた#3の3pcsロッド。
岩手で生産されているカンパネラはお気に入りのロッドで、
フライフィッシングの世界の入り口へと導いてくれた相棒である。
物としての魅力、所有する喜びを満足させてくれる逸品だ。
そんな愛するロッドを携えて、最近は谷をさまよっているのだが、
カワムツ相手にはオーバースペックで、3psの仕舞い寸法では度々、
谷での行動を妨げられる。
そろそろ、こんな釣りに合うパックロッドはないものかと、
渓流歩きの相棒に後ろめたさを感じつつも、新たな釣りのスタイルを模索している。
木枝の重なりをくぐりながら遡行して行くにつれ、谷は狭まり、切り立った岩壁が左右に迫る。
目線を上げると、遠くに1メートル程の落差が生む水の重力が一本の白い筋となって現れた。

3本のピースを繋ぎ、逸る気持ちを抑えながらラインを確実に通す。
右手でロッドを携え、空いた左手で岩をしっかりと掴みながら水際よりも一段高くなった
階段状の岩場を越えて行く。

垂直に切り立った壁が正面に現れた。
ゴツゴツとした岩肌を流れ落ちる水が、その壁下に大きな淵を形成している。
僕はその一歩手前で立ち止まり、片足で大岩に乗り込み様子をうかがった。
なみなみと冷たい水を湛えた蒼いグリーンの淵は、淵尻から1メートルほどで岩組みの
深い落ち込みとなっているようだ。
数歩後退したのち、淵中央付近へ着水したフライは淵尻へとゆっくり流れだす。
水面が小さく弾けた様な気がしたが、それは流れに浮かぶ泡の所為であったのかもしれない。

それから数投後、フライは同じようにゆっくりと水面を漂いながらブレイクを通過した。
小さく、しかし明確に水面が弾けた。
今来るか、今来るかと、しびれを切らし始めていた左手指と右腕が即座に大きく反応した。
陽光に反射するピンと張り詰めた細いラインの先は眼前を一瞬のうちに通過し、
僅かな重みを残したまま、後方で穂先から垂れ下がりブラブラと揺れた。

この淵に岸は見当たらず、左側の僅かに水面から飛び出した岩頭を踏んで越えてゆくと、
数メートル先にガラガラと崩れ落ちた岩塊が狭い流れを覆っていた。
最近になって崩落したのだろう。

崩れた先を仰ぎ見る。
数年後、この狭い流れは更なる崩落によって水がせき止められ、プールが現れるかもしれない。

左壁の上を気にしながら、直ぐ右に迫る岩壁に手を這わせながら進む。
身体前方に伸ばした右手が岩壁の終わりを捕らえ、腕に力を入れて壁から顔をだすと
ワクワクする光景が飛び込んできた。
直ぐにでもこの先を確認したい気持ちを抑えて、半身を隠してバックハンドでフライを放つ。

慣れないバックハンドであったが、それでも少しずつ奥へとフライを届けることが出来た。
右岸の岩の突端をゆっくりと通過し、しばらくしてから手前浅瀬との境目で小さな飛沫とともにフライが消えた。
ラインを素早く手繰り寄せ、掌にすっぽりと収まる可愛らしい淵の住人を静かに水へと戻した。
岩陰から出て淵底を覗き込む。
扇状に広がる深い淵。
浅瀬との境の岩がハングオーバーになっているらしく、こちらからでは確認出来ないが、
その下にいくらかのポケットスペースがあると思われる。
ここを越えていくには右の岩壁伝いが唯一のルートとなるが、それには竿をたたまなければならず、
また、ここまでで既に素晴らしい景色と釣りを堪能した。
一日で全てを見てしまうのはもったいない気がして、この先に現れる流れと
淵の全貌は次回の楽しみに残しておこう。
テーマ:フライフィッシング - ジャンル:趣味・実用
- 2012/12/13(木) 18:00:06|
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今回は炭が谷、マムシ谷、シェール道を経て、目的地の穂高湖まで。
前回に探索したシャクナゲ谷とは約2.5キロほど離れた谷で、同じ阪神高速神戸線の下を通って谷へ入る。
シャクナゲ谷、地獄谷とはどんな違いが発見できるだろうか。
炭が谷の入り口は、住宅街の片隅のこんな目立たない場所から始まる。

この界隈の住宅街は、ここ数十年の間に開拓された土地らしく、各所に里山の名残りが見られる。

人工的に道を開いたと思われる、落ち葉フカフカの木のトンネルを抜けていく。

直ぐに舗装路と交差する。横断して高速高架をくぐって谷へと入る。
この舗装は高速道の建設の為に作られた道だろうか。
この為に森は一時、分断される。

水の流れを左下に見ながら進む。
歩き始めからどんよりとしていた鈍色の空からあられが落ちてきて、被ったフード内にパラパラと響いた。
左は堰堤へ続く道。右はコースの高巻く道。


杉林帯に入る。
あちこちで倒木が確認出来、鬱蒼としてくる。

炭が谷の名の通り、炭窯跡が今でも残る。

更に森内は暗くなる。

砂利の斜面が崩れ、倒木が目立ち始める。
こうして、一雨降るたびに少しずつ崩れて、土砂は谷を埋めてゆくのだろうか。

この景色を見て違和感を覚える。
このV字はそう遠くない昔、大雨が降った影響で両側の斜面の表層がずれて出来たのだろうか。
両側に生えて伸びる木々は斜面に対して直角気味で、どうも変に感じるのは僕だけだろうか?

笹の群生が現れきて、もうすぐ谷を抜けるようだ。

ここからマムシ谷へと向かうが、途中で西六甲ドライブウェイによって分断されている。


舗装路を歩くとカワウソ池が現れる。

この案内板を見ると、前回の折り返し点であったダイヤモンドポイントへは、今回の目的地である
穂高湖から三国池を通っていけるようだ。
それにしても、こちらの山のハイキングコースは縦横無尽といった感じである。

マムシ谷の名は、やはり多いからそう言う事なんだろう。
暖かくなってからは通りたくない谷であるが、コースに立つ杭には森林浴コースと
書かれているとおり、良く整備された気持ちの良いコースである。

マムシ谷を下り切ると、シェール道と交わる。
谷であるので、水の流れも2つが合流する出合い。

ここからはしばし、溜まりのある緩やかな流れが続く。

いくつかのポイントで徒渉しながら先へと進む。


カエデの紅葉が美しい画になる徒渉ポイント。

しばらく、単調な林道を登っていく。

すると、気になるテーブルが現れる。
もしかして、テント場だろうか?
こんな場所に?
であれば、堂々とここでキャンプしても良いってことか。

次第にサーッという水の音が近づく。
正体はコレ。味気ない光景だが、コレを越えた裏は今回の目的地の穂高湖。

堰堤脇の階段を登ると穂高湖が見えてきた。
ぐるりと一周の周遊路らしき道が湖畔に確認出来、それにそって歩を進める。

上の写真のポイントからほぼ対岸は、桟橋のある浅瀬。
「穂高」の名に導かれてここまできたのだが、写真の湖奥にピョコンとなった山がシェール槍と呼ばれているらしい。
フィシュイーターの魚が住んでいれば、その時期にはここらでベイトを追いつめるポイントか。
薄曇りのもと、目を凝らして水中を観察したが、魚影は確認出来なかった。
テーマ:山登り - ジャンル:趣味・実用
- 2012/12/12(水) 12:39:20|
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一歩足を踏み出す毎にザクッザクッと小気味良い音が足裏に響く。
ほんの僅かな、日中の暖かい光に燃えていた紅葉も最盛期を過ぎた。
これから山は本格的な冬に向け、無彩色を纏う準備段階。
緩やかな流れの中で揺れる影をグラス越しに確認する。
サワサワとこの時期、音だけで寒さを覚える様な水際に一人屈んで影の正体を追う。
水底に同化しているのは、脂鰭の無い小さな群れだった。
カワムツだろうか。
しきりに汗を拭いながら、早合わせに夢中になった今夏の青梅の渓を思い出した。
#16のエルクヘアカディスを結ぶ。
バカのひとつ覚えで、もっぱら巻くのはこいつだが、最近は少しずつその幅を広げている。

僕はその浅いプールから少し距離を置き、屈んでフライを投げ入れた。
パシャっと小さく水面が弾ける。
冷えきった身体の芯が小さく熱くなる。
屈んだ直ぐ後方の垂れ下がる枝に引っ掛けてはならない。
眩しいオレンジ色のフライラインが枝の下でたたまれたのを確認した。
フライは間を置き、また先と同じ場所に着水する。
流れ出すフライを息を殺してじっと見つめ、一瞬に備える。
ピシャリ。
僅かな重みが乗った。
ラインがピンと張りつめ、申し訳程度に穂先が震える。
一人、にやりと口元が緩む。
落ち葉の沈む、明るい花崗岩の水底をバックに、フライを加えた影の正体が姿を現した。

屈みながら、水際までそっと近づき水に返す。
一段上がる。
人が通過した為か、こちらは無反応。
ニンフを試したらどうだっただろう。

こちらも最初のポイントと同じ様な浅瀬のプール。
バックが取れず、地元の渓で教わったボウアンドアローでフライを弾く。

先ほどまでは確認出来なかった魚影だが、どこに居たのかと思うほど水面下が賑やかになった。
この可愛らしい小さな生命達も、ここで冬を迎えるのだ。

水面も次第におとなしくなり、いつの間にか姿を消した。
僕は苔蒸したヒヤリと冷たい岩に腰を下ろし、ガソリンストーブに火を入れた。
テーマ:フライフィッシング - ジャンル:趣味・実用
- 2012/12/10(月) 12:38:34|
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やはり行ってみたくなるのが最高峰。
六甲山の最高峰を目指した。
六甲有馬ロープウェイのパーキングに車を停めて、脇道から入り直ぐの鼓ヶ滝をチラりと
眺める。この滝直ぐ左には茶屋がある。

道はこの滝で行き止まり。
ここを少し戻って林道らしき道へ入る。
紅葉谷に行きたいのだが、と沢から離れつつある林道に疑問を感じ始め、沢へと下りる。
比較的大きなダムを横目にもとの道からは対岸のひっそりとした道へ出ると、マニアックそうな水場が。

高塚の清水というそうだ。
立て札を読むと、なんともロマンを感じる。
再発見した。ってこういうのは読んでいてワクワクする。

このあと、ダムのバックに出て結局は最初に疑問に感じて離脱した林道と合流する。
なんだ、そのまま進めば良かったんだと、ちょっと時間ロスした感もあったが、
寄り道が無ければつまらないし、さっきの清水に行き当たる事も無かった。
今回のルートは表題の通り、紅葉谷から入って、目的地の六甲山の最高峰までたどり着くことだが、
途中でいくつも寄り道して、そのなかでも滝が素晴らしいという印象だった。
分岐の道標に七曲滝の文字を発見。
ここまでにいくつかの注意書きで見た名前の滝である。

ここでも少し寄り道して、その滝を見ていく事にしよう。
脇道へ逸れて、細い道を進むと、なかなかの高度感ある巻き道。

木立の合間から白い筋が現れた。

落差あるストレートな滝である。

どうにか下りようと、斜面を確認しながらゆっくりと慎重に。
滝に名札が付いてる訳ではないので、てっきりこれが七曲滝と思っていたが、蟇滝(がまたき)。

這いつくばって滝横の道へ戻り、狭い箇所を通過する。
岩壁にはボルトが打ってあり、そこにトラロープが結ばれている。
今回は雨後で濡れていたため、細心の注意でロープに頼りすぎる事無く渡る。

PETZLって金具もやっているんだと、新たな発見。

沢へ下り立つ。

二手に分岐している左を進む。
岩壁に挟まれた沢筋。
この雰囲気に胸が躍る。
もしかしたら、ここが今日の一番の見どころか。
地に叩き付けられる水の音が次第に近づく。

迫り出した岩壁の奥に滝が現れた。

滝の全容を確認しようと少し離れた場所から。
まだ、上があるのか?
ここが七曲滝。
七つ曲がって流れ落ちるから?だとしたら、まだまだ上があるに違いない。

それにしても、岩壁に囲まれたこの空間。
もう少し長いこと居たくなる不思議な空間。


どういうルートならこの滝を上がれるのだろうと考えた。
こんな気持ちで滝を見たのは初めての事だった。
滝の正面の壁。

いよいよ僕は、この世界にも興味を持ち始めたらしい。
この日、最高の収穫を後に、目的を達成。


もう少し寒くなれば、キリっとした冷気の中で
くっきりとした街並が望めるだろう。
それにしても、海が近い。
東京近郊で言えば、鎌倉のような感じだろうか。
標高こそ無いものの、これだけの豊かな山を背後にもつ神戸の土地は素晴らしい。
テーマ:山登り - ジャンル:趣味・実用
- 2012/12/06(木) 11:03:02|
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神戸の谷に第一歩を踏み入れた前回のコースは、石楠花谷→ダイヤモンドポイント→地獄谷西尾根。
今回は地獄谷→ダイヤモンドポイント→石楠花谷。往路も復路も谷を通り、今度は石楠花谷を下ってみる。

秋色に染まった絨毯の上を軽快に進む。

しばらくは、沢を眼下に眺める。

次第にコースは沢へと近づき、いくつもの徒渉をしてゆく。

釣り人としては、かなり楽しめるルートコースである。

右の落ち込みをチェックしてから、次にフライを打つポイントは。
なんて、いつの間にか故郷の渓流が重なってくる。

見通しの良い蛇行して落ちてくる水の向こうには、異様な黒い塊が。
ここからの距離でもその威圧感を感じ取れる程で、少し恐ろしさも感じてしまう存在が現れる。

ここの流れで最も大きい堰堤と思われる。
無機質で黒く光った冷たい壁から、絶え間なくザァーと流れ落ちる直ぐ下には、なかなかの淵が出来ている。
なるべく影を落とさないよう、少し小高い場所からしばらく様子を見る。
魚影らしきものは確認できなかったが、ここは気になるポイントである。

地図を取り出す。
一番大きな堰で目立つので、容易に現在地を特定出来た。
この脇の急階段を堰の端に沿って登って下りればその先へ進めるのだが、
階段を下りて見えたのは、水に消えていく階段の先だった。

まさか、と思い、水際まで下りて先を見やるも、水没で通れそうな箇所は無い。
楽しめそうな谷だと、意気揚々とここまで来て、まだ谷の3分の1程までだろうか。
重い足取りで階段を引き返す。

しかし、ここで引き返さずに先へ進む人がいるはずだと、戻り途中で踏み跡を発見。
ここから急登して尾根の一端らしき場所に出る。

ここは地獄谷東尾根の一部だろうか。
前回に下った西尾根から見えた尾根にいるのかも知れない。

水没の先へと下りる。
上流からはサラサラと細い流れが注ぎ込む。
一体どれくらいの期間、ここは水没したままなのだろうか。

上流へ向かって歩を進めると、地獄谷道の道標に少し安堵する。

ここからまた、徒渉を繰り返してゆく。
石楠花谷よりもこちらの谷は、正規ルートで渓流を楽しめるようだ。

渡る前に小さくても淵があれば、静かに近寄って様子を見るようにする。

上がるにつれ、様々な表情を見せてくれる。
滑床もあり。

ガレた岩の下を水が流れ下ってゆく。


滝も大小現れる。


これも滝と呼べるのかは分からないが、ジグザグに落ちる水の動きと、
段々とランダムに刻まれた岩肌の雰囲気が美しい。
まばらに散る落ち葉が良い。

既にコースは流れの脇ではなく、渓流の中を遡行してゆく。
流れの左、濡れて滑りやすくなった岩肌を見極め、慎重に足をかけていく。

大きな岩を乗り越えてゆくたびに、次はどんな水の流れが現れるのか、
ワクワクしながら想像して谷を堪能する。

もう既に気分は、右手にロッド持ち、熊鈴をチリンチリンと鳴らしながら
次に打つべきポイントを捜しているようだ。

上流を見遣る視界に空が入り始める。
谷も後半を過ぎた頃だろうか。

水中でキラリとした光を確認する。
脂鰭は無し。

大淵現る。



夢中で岩に足を掛けて遡行しているうちに、僕はすっかりこの谷を気に入る。

もう少し経てば葉も落ちて、浅瀬には薄氷が張ったりして、冬の谷の表情を見る事が出来るのだろう。

降雪があるか分からないが、年間をとおして通ってみたい谷である。

流れは緩やかになり笹の群生が見え始めると、いよいよ谷も終わり。

ダイヤモンドポイントで折り返し、石楠花谷へ下りる事にする。

復路、石楠花谷の小滝上の岩に腰を下ろす。
靴を脱いでアグラをかいて目を閉じてみる。
無とはほど遠い。
テーマ:山登り - ジャンル:趣味・実用
- 2012/12/04(火) 10:59:28|
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