車が通る音で目覚めた。
普段なら車の音なんかで起きることはない。
都会ならうっすらと空が白み始める頃から少しずつ交通量が多くなり
7、8時ともなると休日の朝をどこかへ出かける車の音で騒がしくなるが
僕の寝ている隣の小道は幹線道路から外れた道であり、それ以前に田舎であるから
車が通る音がうるさいなんて事はない。
ギュギュギュっと低速でタイヤが路面を踏みしめながら進む音。
懐かしい音で思わず目覚めたのだった。
僕の寝室にはカーテンが無い。
ここに入居した当初は、近いうちにカーテンを張ろうと考えながらも
幾晩か経つと、そんな気も失せた。
部屋の電気を消して布団に潜り込み、そこから窓越しに見える景色は最高であった。
特に月明かりのある晩には明るい夜空がくっきりと真っ黒な山の稜線を描き出し
その上に散らばる星の煌めきを、ぼんやりと眺めながら眠りに落ちる。
豊かさとはなんだろうか。
僕の求める豊かさはこういうことであったんだと、体験してみて初めてピンときた。
車の通る音で懐かしさを感じ、ワクワクしながら布団から這い出て窓の外を見ると
期待通りの景色が広がっていた。

この地に移って、今年で二度目の冬を迎えている。
去年の降雪は2、3日であったから、下手したら今日を逃すと後悔する頃になると思い
隣の部屋でぬくぬくと、まだ夢の中の家族に準備をしろと言った。
カミサン、長男はテコでも動かず。
甘い言葉をささやいて、やっとの事で一番幼い次男を連れ出す事に成功した。
そうと決まれば直ぐに着替えさせて、バナナをかじり家を出た。
家から数分のハイキング道へと足を踏み入れる。
足跡は無い。
どうやら僕らが一番乗りのようだ。
こんな日に歩かないなんてもったいないと、心の中で思いながらも
この景色を独り占め出来ることが更に冒険心を刺激した。

何度か歩いたこの道も雪が被れば別世界。

一面の銀世界は望めないが、この地では上出来である。

昼が近づいて日が射せば直ぐに消えてしまうだろうから
次男には急かさず、それでも足早に谷を歩いた。


雪のある自然の景色が好きだ。
地形がよくわかる。
普段なら気にも留めない、僅かな起伏も見て取る事ができる。

谷を歩いてはいるが、底ではない。
谷歩きの楽しさは水沿いだと思っている。
それは僕が釣り人であるからなのかもしれないが、
しかしここは、一年を通して水量の極めて少ないチョロチョロとした流れであり、
竿を出せないのが残念ではあるが、贅沢な望みだろうか。
それでも、と思い次男を抱きかかえながら下りてみた。
やはりチョロチョロである。
この上には、2つの大きな堰がある。
その存在に疑問を持つ。

この道は里山から始まる。
ある区間を抜けると多様な樹種の森から一転、杉山に変わる。
各所に炭焼きに使われた石組みの跡を見る事が出来る。
一昔前までは、里山が存在していた。
今では、びっしりと苔で覆われ、しかし、人が積み上げたその石組みは
おそらく今後何十年、風化しながらもその跡を残す事になるだろう。

振り返れば、僕の足跡と次男の小さな足跡。
折り返し地点で、僕らよりも早い時間に活動していたらしい、小さな蹄跡が残っていた。
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- 2014/01/26(日) 23:37:03|
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去年の今時期、谷を何度も歩いた。
新たな生活を始めた僕にとって、冒険心を刺激し、まだ先の見えなかった近い将来を
暗中模索しながら様々な気持が入り乱れる中歩いた谷である。
あれから一年が経ち、やっと家族と歩きたい気持ちになった。
谷へ足を踏み入れると冬の匂いがした。
あの時と同じ匂いにどこか懐かしさと安堵を覚えるとともに、こうして初めて家族と訪れると
別の景色に感じる。
歩を進めるごと、目に飛び込んでくる谷の風景は其々違うのだろうけれど、
他の誰よりも新鮮な感覚で歩く。
あの時の感情をそっと胸の奥に仕舞って、カサカサと鳴る冬の路を愉しんだ。

まだまだ幼い子供達がどこまで行けるのだろうかと何度か連れ出していたが、
長男は僕と共に谷を抜けることは容易いだろう。
次男はあと一年といったところか。
堰堤上の溜まりは結氷していた。
去年は水が多くてここには降りられず、急登攀して先に降りていたものだから、
もし今年も水があったのならばこの前で折り返していた。

冬の谷の美しさが好きだ。
無数の大きな生命感は一時その気配を潜めるが、おおいに感じることが出来る。
伸び伸びと枝葉を伸ばし、動き回る季節が来るまで。
死ぬものもあれば、耐えるものもある。
耐えるという表現は僕のフィルターを通しているからであり、実際は違うのかもしれない。

山肌からぶら下がる氷柱を発見した。
その氷柱は水の流れをわかり易くした自然の芸術である。
染み出た一滴が海へ注ぐ。
去年、そう感じ思ったことを子供達に伝えた。

水の流れは地形の変化と共にある。
子供達が大人になった時、ここの流れはどのように変わっているだろうか。


今年は付き場がかわったのだろうか。
去年に相手してくれたカワムツ達が姿を見せることは無かった。

普段と変わらない週末の時間を近くの谷で過ごす。
なんと贅沢なことだろう。
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- 2014/01/18(土) 01:04:27|
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とある滝でキャンプ仲間と再会した。
香川には帰省で何度も訪れてはいるのだが、久しぶりの再会に適した場所と
考えてみても、家から20キロ圏内の釣り場が思い出されるだけだった。
四国中を旅している彼らに探し出してもらったのが、この滝だった。

各地で最高気温が更新されている中、僕も暑さにへばっていた。
しかし、ここへ来てみれば香川県なのかと思う程の気温と水のある風景だ。
さっそく滝下のプールへ入る。
ひんやりとした自然の水の冷たさ。
この感覚いつ以来だろう。
最近はもっぱらウェーダーでしか水に入っていないのだから。
子供を抱えてプールを抜け、ザーザーッと勢いよく流れ落ちる滝下へ入ると
その水圧と冷たさで、一瞬息が詰まる程だった。

子供達が自然の水場で遊ぶ光景はいいものだ。
どこかホッとするものがある。
それは僕の幼少期と重なるからなのか、そんな自然が今もまだ残されている安堵感から
なのか。

そんなことを考えながら周りで夏休みを謳歌している家族の香川弁が妙に耳に残った。
滝と聞けば釣り道具。
子供達に釣り体験をさせること、そして僕もまた香川の山中での釣りをしてみたかった。
滝から流れ出した水は浅く緩やかに流れ、直ぐ下の小さな堰堤で一旦僅かな淀みを作って
またフラットに流れて行く。
上からそっと近づき、堰堤下を覗き見ると影が走った。
子供達を誘って、早速のうちに竿を出す。
代わる代わる彼らを後ろから抱えるようにしてキャスティング。

何度もフライに出るがフッキングには至らない。
#16のEHCから#20のパラシュートに変えて再び。
出たのは、ここでもカワムツ。
もはや僕にとっては馴染みの魚となっているが、子供達には目新しい。

その後、お父さんもフライ初挑戦。
子供達の釣りを端から見ていて、フライに出る光景に
彼のスイッチが入ったらしかった。

遂に合わせが決まり、親子そろってフライで初釣果。
家に帰ってから写真チェックをしたところ、子供達以上の満面の笑みであった。
フライフィッシングの世界へようこそ!
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- 2013/08/28(水) 21:12:41|
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休日を自然の中で過ごすことにどういう意味があるだろうか。
その後の文の展開もよく考えずに、このような冒頭を書き出してみて、
自分には、社会や人々の生活また自然の深い知識がある訳でもなく、
deleteキーをカタカタと押して消そうと思っていた。
メンドクサイ展開になりそうだし、確かな裏付けのある事柄を矛盾無く
書かなくてはなりそうだ。
しばらく、その冒頭を眺めて、自分にとってはどうだろうかと考えてみた。
自然は自分にとって身近な存在で、当たり前の環境だったと思い返す。
虫捕り、川遊び、キャンプ、スキー、自宅から見えた四季の山。
これらの原体験が今の自分の一部を形成しているのは確かだが、
もし僕が都会のまっただ中で育ったらどうだっただろう。
前よりも一つ難易度の高い区間を歩いてみた。
どれくらい行けるのだろう?と興味があった。
濡れている岩は滑って水に落ちるからな。とだけ伝えた。
誰も教えていないのに枝や棒を持つのは何故だろう。
僕は次男を抱っこしながら、自分が転ばないように気をつけて岩を越えていく。
ふと後ろを振り返ると、長男の目つきが変わっている事に気づいた。
今まで見せた事の無い野性的な鋭い眼光にビクリとした。
周りを観察し、これから飛び移る岩を目で追っている。
飛び越えられる距離なのか、滑らないだろうか、どうやって足を出すのか、色々と考えているのだろう。
長男の発する雰囲気は、我が子では無いようとさえ思える程で、そんな一面を見て
親父として嬉しく、男として頼もしく思えた。

おっかなびっくり、時には大胆に、彼にとっての難所を通過して
僕の設定したゴールへ無事にたどり着いた。

岩に腰を下ろして休憩。
次男と一緒になってお菓子を食べる表情はいつもの長男に戻っていた。

僕は小滝の向こうが知りたくて岩へ足を掛け、伝って向こう側へたどり着いた。
親が言わなくても、自分から登り始める。

その一部始終を見ていた長男は近くの岩に挑戦した。

復路では、どうやら感覚がわかり自信がついたようだ。

最後の徒渉で気が緩んだのか、目測を誤り遂に沈。
靴の中までびしょぬれとなった。

普段、言葉だけではなかなか伝わらない意思疎通だが
自然はそれを容易にしてくれる。
僕も親として、人として成長しなければならない。
そんな事を感じさせてくれる、僕にとっての自然である。
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- 2013/02/28(木) 13:10:24|
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休日の昼下がり。
バックパック2つにランチボックスとブランケットを詰め込んで、いつもの谷へ。
子供達にとっては今回が初めてとなる神戸の谷である。
まずは次男を抱えて徒渉し、対岸に置いてくる。
長男はどこまでいけるだろうと、脇に付きながら所々サポートし渡り着いた。
家族でこんな休日を過ごすこと、そしてこのような環境が近くにあることが
どれだけ幸せなことか。
10年近く都内に暮らして、渋滞と移動費にストレスを感じていた頃からずっと
思い描いていた休日の過ごし方がやっと手に入った。

さぁ、自分の力で歩けよ。
普段歩いてる箇所でも子供の歩幅では難所になる場所も意外と多いことに気づく。
彼らの目線では捕らえる世界も違ったものになっていることだろう。
出かけるたびに直ぐに抱っこをせがんでくる次男に対しても、今日はそれを許さない。
親に手を引かれながら、長男に手を引かれながら、なんてこと無い緩やかな斜面で度々
足を滑らせても、自らの足で歩いて行く。

雪がまだ残る日陰。
時々立ち止まりながら、一歩一歩、ゆっくりと歩いて行く。
どんなことを感じ取っているのだろう。

道から少し離れた木立の間にブランケットを広げてランチ。
じっと座っていると芯まで冷えてくる。
コーヒーの準備。
今回持参したストーブはSOTOのMUKA。
前から気になっていたゴトクの滑り対策として、サンダーで切り込みを入れておいた。
果たしてその効果は?

ゴトクにケトルを乗せて揺らしたり、傾けてみる。
びくともしない。
いくらなんでも効きすぎてるぞと思い、ケトルの底を覗くと、ふちにリブが立っていた。
これがフラットな鍋底なら大した効果は無いのかもしれない。

日没まであと数時間。
子供達の歩く早さを考慮して早めにランチを切り上げ、直ぐ上の滝を目指す。
底まで下りると、水の流れの上を冷たい風が吹き抜けて一段と寒さが増す。

ほんの数百メートルも歩けば滝に出会う。
森、渓流、滝と色んな自然を短い距離で楽しめる、これぐらいの歳の子供達には
丁度良い地形と距離である。

高さはそれほど無い2段の滝。
枝の先には氷の華が咲く。

斜面を少し上がって、2段滝の上の釜。
どうやってこの釜が出来たんだろう。
少しずつ水が岩を削ってできたのかな。
そうなら、水って凄いね。

自然が作り出す色、かたち、感触、匂い。
見たもの、感じたこと。
五感に響く大事な体験。
テーマ:アウトドア - ジャンル:趣味・実用
- 2013/01/21(月) 12:24:26|
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